心臓リハビリテーション / サルコペニア外来の開設
心臓リハビリテーション / サルコペニア外来の開設
―歳のせいにはしたくないー
毎週木曜日午前中診療
私が循環器内科医として働きはじめた1980年頃、急性心筋梗塞の治療は安静臥床を主体とした治療で、死亡率は優に30%を超えていました。入院期間も平均1か月以上と、社会復帰にはさらに時間を要していました。現代医療は進歩し、急性心筋梗塞の原因が血栓症であることが判明しました。以後、血栓溶解療法や冠動脈形成術による再灌流療法が普及し、今日、死亡率は5%まで減少し、入院期間も平均10日程に短縮しています。このように急性期の心筋梗塞治療はほぼ確立した感があります。
これに対して心筋梗塞の発症を抑制する予防医療は十分とは言えません。日本では食生活の欧米化や車社会による運動不足などにより、糖尿病などの生活習慣病は増加しています。死因の年次推移をみても、悪性新生物についで心臓・血管病は第2位であり、増加傾向を認めています。これは心筋梗塞の急性期の死亡率は低下したものの、動脈硬化による心臓・血管病は治癒することはなく進行し、慢性疾患として寿命を短くする要因となっていることを示しています。心筋梗塞の治療は重要ですが、心筋梗塞にならないことがより重要です。
心臓・血管病の予防に対する心臓リハビリテーションの役割は重要です。心臓リハビリテーションとは食事療法、運動療法および薬物療法を中心に生活指導(禁煙など)やカウンセリングを組み合わせた多種職による包括的なリハビリテーションです。従って、整形外科や神経内科領域における機能回復を目的にしたリハビリテーションとは大きく異なります。心臓・血管病の患者さんは、心臓や血管をいたわるために安静臥床が続き、運動能力や体の調節の働きが低下しています。そのため、退院後すぐには活発な運動はできません。どの程度の身体活動を行っていいのか分からないために不安もあるでしょう。社会復帰する前に心臓リハビリテーションを受けて、心臓・血管病を繰り返さないように(二次予防)、生活の質を高めることが重要です。さらに、心臓・血管病を発症していない方を対象に、生活習慣の是正により肥満、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、喫煙などのリスクを改善し、心臓・血管病にならないように一次予防を行うことも心臓リハビリテーションの大切な目的です。
日本は超高齢者社会となり、フレイルが新たな医学的問題になっています。フレイルとは老化に伴う種々の機能が低下し、多様に出現する健康障害に対して「脆さ」が増加している状態です。超高齢者はフレイルを経て要介護そして死亡に至ります。筋力やバランスの低下などの身体的フレイルの要因にサルコペニアが含まれます。サルコペニアは筋肉量が減少した状態です。介護予防の観点からもサルコペニア/フレイルを予防することはきわめて重要なことです。これには包括的心臓リハビリテーションが有効な介入法であると考えています。
心臓・血管病の予防・治療のための心臓リハビリテーションをよく理解して頂くために「心臓リハビリテーション外来」を、また、心臓・血管病の存在は高齢者のサルコペニア/フレイルを促進する要因であることを考え、併せて「サルコペニア/フレイル外来」を開設しました。これからは「歳のせいにはしたくない」ですね。どうぞお気軽にご相談ください。
2015年7月8日